- 老朽化進む「団地」に新しい価値を。注目集める神奈川県住宅供給公社の取り組み 投稿日 2020年3月26日 07:00:56 (不動産ニュース)
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建設から40年50年が経過し、建物の老朽化、住民の高齢化などの課題が山積している「団地」。建物・土地をどう利活用していくのか、維持管理マネジメントが問われています。神奈川県内に約1万3500戸の団地を持つ「神奈川県住宅供給公社」は、いち早くマネジメントの見直しに取り組み、評価されているといいます。今回は、そのマネジメントと団地の持つ可能性をご紹介します。
課題が山積みの神奈川県住宅供給公社の団地、解決の仕方が評価
「建物の所有者が、建物と周辺環境を総合的に管理し、より効率的・戦略的に経営していく」ことを指すアメリカ発の概念「ファシリティマネジメント」という言葉があります。単なるビルの維持管理ではなく、不動産をどう経営に活かしていくかという、「経営戦略」です。2020年、公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会が主催する「第14回日本ファシリティマネジメント大賞(JFMA賞)」にて、あまたの企業・プロジェクトの取り組みの中から、神奈川県住宅供給公社が「最優秀ファシリティマネジメント賞(鵜澤賞)」を受賞しました。
神奈川県住宅供給公社は現在、神奈川県内に112団地、371棟、約1万3500戸の賃貸住宅の維持管理を行っており、その多くはいわゆる「団地」です。特に築40年以上経過した建物は323棟と全体の約87%にものぼり、建物と設備の老朽化が課題となっていました。
90haにもおよぶ広大な敷地の自然に囲まれた若葉台団地(写真提供/神奈川県住宅供給公社)
今回ファシリティ・マネジメント(以下「FM」)の視点において、財務・品質・供給の3視点がバランスよく、長期を見据え戦略的な展開をしていることが評価されて大賞受賞となったわけですが、そもそものきっかけとなったのは、2015年、とある団地で起きた「ボヤ騒ぎ」だったそう。大事には至らなかったものの、土曜日の夜だったこともあり、その部屋の住人の世帯情報(性別や年齢、人数など)にたどり着くのに数時間もかかったことをきっかけに、「統合的なデータベース」を導入することとなった。縦割り組織の弊害で、団地の情報(修繕履歴や空室率、入居者情報)も部門ごとにバラバラで作成したり、紙ベースで保管したりしており、持っている情報を活かすことができなかったのです。
そこで住戸単位であらゆる情報を管理するデータベースを導入、「団地の基礎情報」「棟ごとの資産情報」「修繕状況」「財務状況」「入居契約」「募集情報」など、各部署に必要な情報がすぐに分かるようになりました。また、それまで外注していた、入居希望者向けのコールセンター業務を内製化し、「顧客ニーズの把握」や「情報のフィードバック」など、情報を活用していくことができるようになりました。
各団地の課題が明確になり再生計画がスタート。経営状態も改善
こうした公社内での改革・改善が進むと、団地ごとの「入居状況」「強み」「課題」が明確になるとともに、「課題解決」のための取り組みやその反響も徐々に分かってきました。それにより、新しい施策→実行→反響→次回以降の改善、というプラスのサイクルがうまれるようになったのです。
「データベースの導入により各団地の特色や取り組むべき事柄が明確になり、効果的な施策につながったとみています」と振り返るのは神奈川県住宅供給公社の総務部課長の鈴木伸一朗さん。
FMという概念やデータベースを活用するのは主に管理する側で、一見すると住民には関係ないように思えますが、入居希望者や入居者の属性、建物などの「修繕履歴」「空き家率」等、情報が一元化してあることで「団地の課題」が把握でき、必要な施策や改善措置が行われるようになるため、住む側にとってもプラスの効果が出てきます。
これらの取り組みから分かるのは、古い団地の維持管理を単なる管理業務としてこなすのではなく、適切に修繕管理するとともに、より良い方向で活用すれば優良な「資産」となりうるということです。
3年で150組の入居も。団地再生の取り組みははじまったばかり
公社が行っている団地再生の取り組みはどれもユニークなものばかりですが、特にFM大賞で評価されているのは、持続可能な社会への取り組みや地域社会に貢献している点です。
例えば、「アンレーベ横浜星川」(横浜市保土ケ谷区:1954年着工)では、耐震性能には問題はなく、適切な投資(断熱や給排水設備の改修、室内のリノベーション)をすることで、十分に既存建物を活かせると判断。“一棟まるごとリノベーション”を行い、居住性能を向上させました。「持続可能な社会」のために、スクラップ・アンド・ビルドではなく、きちんと修繕して長く使う成功例となることに期待したいところです。
改修前(写真提供/神奈川県住宅供給公社)
改修後(写真提供/神奈川県住宅供給公社)
ストックの利用だけではありません。例えば、空室が4割を超えていた「二宮団地」(中郡二宮町:1962年造成着工)では所有するさまざまなデータを総合的に判断して、「残す18棟」と「壊す10棟」とを選別しました。その結果、取り壊しが決まった棟にお住まいの人には、同じ団地内の別の棟に移転してもらったといいます。残すと決めた「二宮団地」の棟では、内装や設備を改善したプランにより、今の暮らしにあわせた住宅としたほか、内装に地域木材を活用したリノベーションプランや一定の要件の中で原状回復不要のセルフリノベーションプランなど、二宮団地独自仕様の住宅も導入しました。
音楽を活用したコミュニティの活性化や団地内の公社所有地を活用した共同菜園、また、公社所有の共同農園の管理や農業体験イベントの開催などに協力することを条件とした「アグリサポーター」制度により就農を応援するなど、さまざまな取り組みに着手。地域住民、町と公社の協同で、団地のPRにとどまらず、二宮町での暮らしの魅力を発信したところ、3年間で約150組の新規入居があったそう。
約70haの二宮団地。新しい里山暮らしを提案(写真提供/神奈川県住宅供給公社)
リノベーション後の二宮団地の部屋の一例(写真提供/神奈川県住宅供給公社)
二宮団地では「アグリサポーター制度」により就農を応援するなどの取り組みが行われている(写真提供/神奈川県住宅供給公社)
また、「浦賀団地」(横須賀市:1970年着工)では、高齢者が住みにくい4、5階の空室が目立っていることが「データベース」でよりクリアに把握できました。そこで、団地の地域コミュニティの活性化を目的とした「団地活性サポーター制度」を導入。県立保健福祉大学の学生に住んでもらい、大学で学ぶ専門分野を活かし、コミュニティの担い手として活動してもらうことに。ちなみに入居した学生からは「地域コミュニティの経験が少ない環境で育ったからこそ、こうした地域の高齢者とふれあいたい」という声も聞かれるのだとか。
浦賀団地(写真提供/神奈川県住宅供給公社)
浦賀団地サポーター(写真提供/神奈川県住宅供給公社)
「相武台団地」(相模原市南区:1964年着工)の取り組みは2019年、記事でもご紹介しましたが、以前は空き店舗の利活用が課題となっていました。イベントの実施や情報発信などにより商店街と団地ににぎわいを取り戻す意志を持った入店者を募集し、現在は「カフェ」、「児童クラブ」などが入店したり、こども食堂が行われたりと、地域を盛り上げています。昨年は子育て層からシニアまで、幅広い世代が集う場として、多目的・多世代交流拠点「ユソーレ相武台」を開設し、さらににぎわいを取り戻すことに成功しています。
相武台団地(写真提供/神奈川県住宅供給公社)
相武台団地の商店街(写真提供/神奈川県住宅供給公社)
ユソーレ相武台(写真提供/神奈川県住宅供給公社)
公社ではそれぞれの団地の状況を把握することで、その団地がもつ強み・特色を把握し、それぞれの団地に適した取り組みを実施するようになりました。それにより団地の埋もれていた魅力を掘り起こしたり、新たな価値を付け加えていくことで、「団地」をただ昔の住宅としか捉えていなかった人たちの関心を呼び起こすとともに、団地へ呼び込むことにより、団地を「持続可能な社会」とすることへと模索が続いています。
団地は大きなシェアハウス。再評価の流れに今後も注目
前出の鈴木さんは団地のよさについて「人との距離が近いことにつきます。オートロックのマンションの距離感、一戸建てとの距離感とは違います。階段室があって、住居がある。顔をつきあわせる存在がいる。団地内に商店街や緑、集会所をはじめとする共用スペースがあり、団地そのものが大きなシェアハウスのようなもの」と話します。
二宮団地の共用スペース「コミュナルダイニング」(写真提供/神奈川県住宅供給公社)
確かに! 団地そのもののゆとり、つながりは今でいう「シェアハウス」に近いのかもしれません。
また、神奈川県住宅供給公社の団地では、敷地内の歩車分離や電線地中化がなされていることも多く、まち全体が安全で、空が広く、緑と敷地にゆとりがあります。だからこそ、室内をリノベーションすれば住み継ぐことができるのでしょう。
昭和が残してくれた、暮らしの遺産。「団地」回帰・再評価の動きにこれからも注目していきたいところです。
●取材協力
神奈川県住宅供給公社
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